消え方

5月中頃だっただろうか、隣の部署の人が一人辞めた。

私は入りたてで自分の支店の中さえ把握できてない、そんな中「今までありがとうございました」と挨拶して消えていった人を私は顔も名前も覚えてない。

後日、社内伝言板で顔写真もなく、一人退社したと綴られていた。ほかの人は分からないが、私の記憶の中からは綺麗に消えて無くなるように次の日には忘れていた。

話は変わるが、みんなはどんな死を迎えたいだろうか。死に方ではなく、死んだ後の周りの反応である。

私は上に話したように記憶からするりと抜けるように忘れられたい。誰も悲しまず、次の日にはそんなやつもいたなみたいな感じで記憶からも消えて無くなりたい。誰からも私が居なくなるごときで悲しまれたくない。

 

昔読んだマンガで、自分の思い通りにできる能力を持ちながら子供の頃から孤独で、敵であるはずの主人公と仲良くなり、誰の記憶にもそこにいた存在すら無かったことにして消えた奴がいた。でも、その男の子は完全に存在を消すことができず、主人公には「何か分からないが大事なものがあった」という感覚だけが残った。みんな何があったか思い出せないし、諦めようとする。それでも諦められない主人公はなんとかしてその男の子のことを思い出す。

なんて美しいのかと思った。だれか一人こうして存在を覚えていたいと思う人がいること、自分の存在が嫌いで仕方なくても、こんなに想える人と出会えたら嬉しいだろう。主人公も男で恋愛ものではないが、だからこそ感動したのかもしれない。男の子の名前は宵風(よいて)だったかと思う。調べたら出てくるかもしれない。

こんな風に多くの人の記憶からすっと消えて無くなりたい。突然いなくなっても、あまり人の中にに悲しい記憶で居続けぬよう。